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第46回文化サロン 平成20年10月16日

「神楽を見るために―神楽鑑賞実践ガイド」
ゲストスピーカー 飯坂 真紀 氏
(ふるさと岩手の芸能とくらし研究会発行「とりら」編集人)
第46回文化サロンのポスター プロフィール
 飯坂真紀氏は1954年北海道に生まれ、岩手大学教育学部特設美術科を卒業しました。在学中に早池峰神楽に出会い、神楽に魅せられたといいます。
 2001年には滝沢真紀子氏、北口まゆ子氏と「盛岡かぐら応援隊」を結成、「明快!かぐら講座」を開催しました。2002年には盛岡市の大ヶ生山伏神楽保存会に加入。2007年に研究同人雑誌「ふるさと岩手の芸能とくらし〜とりら」を発刊し、現在に至っています。
 一方、個展をたびたび開催するなど画家としての活動のほか、「盛岡ゆべし学会」の立ち上げに参加するなど、幅広く活躍されています。
ゲストスピーカーの飯坂真紀氏
石鳩岡神楽の権現様(50年前作成)
石鳩岡神楽の権現様(50年前作成)
 今回の文化サロンは、神楽に魅せられ応援や保存活動にも活躍されている飯坂真紀さんに、神楽の解説や鑑賞のポイントを語っていただきました。
 飯坂さんは、神楽の面白さは舞が素晴らしく、おはやしにも惹きつけられるが、小さなお祭りで地元の人たちと温かい雰囲気で一緒に楽しめるのが魅力だと話されました。

プロローグ
 「神楽はむずかしい」?「意味は何か」、よりまず見ること。寒くて暑くてしびれて腰が痛くなるのが神楽鑑賞
1.岩手県の神楽
◎ 山伏神楽とそれ以外の神楽
 山伏神楽は東北地方に広く分布する獅子神楽で、早池峰山を中心とする地域に伝わる「早池峰系」、三陸海岸地域の「黒森&鵜鳥系」、北上 ・ 花巻地域の「大乗系」、盛岡周辺の神楽(大宮神楽など)、県北の神楽(中山手 : ―戸町中山が起源、江刺家手 : 九戸村江刺家近辺が起源)などさまざま。

 森口多里は北上市に伝承されている大乗神楽も山伏神楽とは分けている。大乗神楽は、気仙地方の法印神楽に関連する神楽とされ、修験色の濃い神楽。数珠を使ったり、役柄に神様の本地として仏さまの名前が出てきたりする。大事なのは大乗飾りという、舞台に色紙や切り紙をたくさん飾る点です。
 盛岡市にも山伏神楽がいくつもあり、早池峰神楽は早池峰山の信仰を中心とする神楽。岩手山、姫神山を中心とする神楽があった。神楽は今もあるが山への信仰はちりぢりバラバラになって資料もほとんど残されていない。
 中山峠から向こうの神楽は大きなグループを作っているが、県北の神楽は活動が盛んだとは言えない。しかし、特に一戸の神楽と九戸の神楽は南部領の神楽の大きな源流になっている。
 先日、北上市で行われた高校総体の郷土芸能部門で葛巻高校の生徒たちが、葛巻神楽(演目は権現舞)を舞って優勝した。早池峰系の権現舞だと、下舞という権現様を持つ前の舞を入れても15分くらいなので、それで優勝はなかなか難しいと思う。(県北では下舞と権現舞をあわせると30分を越える神楽もある)

大蛇退治(黒森神楽―飯坂さん提供)
大蛇退治(黒森神楽―飯坂さん提供)
 また沿岸地域に強力な神楽があり、それは国指定になって大人気の黒森神楽と、鵜鳥神楽。多くの山伏神楽は冬場の農閑期に村を訪れて権現舞で春祈祷をして、夜は大きなおうちで夜神楽をやって泊まり、次の日、別の村へという巡行をしていた。黒森神楽と鵜鳥神楽は今もこの巡行を続けている。
 神楽を迎える神楽宿の負担は大きく宿を引き受けるお宅が減りつつあり、神楽の方はいつも気をもんでいる。一般のおうちで神楽を見せて頂く機会があればとても感動すると思う。
・ 山伏神楽以外の神楽
 社風神楽〈みやぶりかぐら〉(盛岡市の大宮神楽や川井村の末角神楽など)、江戸里神楽、南部神楽などがある。

◎ 神楽の重さ
 昔の幸田神楽(花巻市幸田に伝承)では、神楽を務める上では仕事も稲刈りも葬式さえも免除された。鵜鳥神楽の例では、「なんぼ晩げ泊まっていってくれるか?」と聞かれるという。花巻地方では神楽が上手ければ女の子にモテた。神楽をやっていることは隠したがるのが盛岡地方の子供たち。
写真で説明
写真で説明
2.神楽が行われる場
◎ 神楽座―聖なる結界をつくるもの
 早池峰系は四つ竹としめ縄でつくり、大乗神楽は大乗飾りをする。幕の前が「舞所」となる。黒森&鵜鳥は神楽殿を持たない。

3.権現様とは?
 神様が姿を借りるのが獅子頭でこの獅子を権現様と呼ぶ。稲荷は神のお使いで神ではないが権現様は神様の仮の姿である。「権現様をまたいではならない」と注意される。
 権現様のはたらきは、「悪魔払い」で春祈祷(一年の始めにその年の家内安全を祈る行事)、火防祭、柱かじり(屋固めとも言う)である。

 東北では獅子頭に神霊を移したものを「権現様」と言って神様として信仰されている。ただし下北半島地方では、「ごんげんさま」という呼び方はなくて「おくまんさま」と言ったりして、熊野信仰からそのまま「熊野さま」という呼び方になっている。「お獅子」との違いは「赤ら顔は獅子、権現さんは黒い顔」。耳が垂れているのが「おシシ」で権現さんは立っている。幕の模様が「おシシ」はシャグマの模様。権現さんは早池峰系の多くは七五三の算木だが、盛岡地方だと火炎宝珠。大ヶ生の神楽ではよくばって算木と宝珠と両方ついている。黒森神楽ではしめ縄とシャグマ。大乗神楽では権現様は龍だといってウロコ模様。
 おシシの神楽は「大神楽」といって山伏神楽とは区別しているが、○○大神楽を自称する団体でも、「ごんげんさん」と呼んで門打ち(権現様の戸別訪問)に歩いたりしている。正月から4月頃にかけて、春祈祷といって権現様を持って一年の厄を祓って(悪魔払い)歩く習慣がある。待ち受ける家ではお米とお花というお賽銭を用意して迎える。座敷に入って神棚を清める神楽もあるし、玄関の前で短い舞をする団体もある。必ず火伏の祈祷をするので、火事予防を祈る火防祭と混乱している場合も見られる。

身固め(石鳩岡神楽―飯坂さん提供)
身固め(石鳩岡神楽―飯坂さん提供)
 権現様の働きとして、この火を食い止めるというのがある。火事になったとき、誰か屋根の上で文字通り炎を噛んで火を「食い止める」ものがあり、見たらうちの権現様だった、という言い伝えがある。
 同様に柱固めとか屋がためといわれる行事は、家を建てたときに神楽に来てもらって権現様に柱を噛んでもらうと家内安全が得られるという信仰。(棟上げのとき、柱立てのときの場合もあり)
 身固めというのは、頭を噛んでいただいて無病息災を祈る儀礼。

(講演終了後に花巻市東和町の石鳩岡神楽(早池峰岳流山伏神楽)の皆さんに文化サロンの会場に来ていただき、目の前に権現様を供えて解説してもらいました。)

4.番組の組み立て
 神話にちなむもの、古い能、修験者の技を見せる物、語り物から来た歴史物で組み立てる。
 式舞という考え方には、式三番(能以前の能)、式六番(十二番)、役舞。
 式舞以外の舞は荒舞、女舞、武士舞、狂言。

 飯坂さんは、神楽はプロローグにあるようにいろいろ考えることなく、暑くても、寒くても実際に見ることによって面白さや魅力が分かってくるものだと強調されました。(演ずる時間は大体2時間くらい)
 また、神楽で実際に使われる横笛や鉦(かね)を演奏して聞かせてくれました。
神楽舞の分類
神楽舞の分類
塩ビ製の音色を披露(竹製の笛もある)
塩ビ製の音色を披露(竹製の笛もある)
かね
かね
飯坂さん編集の「とりら」
飯坂さん編集の「とりら」
5.神楽を見るために
◎ 情報の収集
 新聞、インターネット、書籍資料、「とりら」、張り紙など
 (「とりら」は、盛岡のさわや書店、東山堂書店などで販売〈500円〉しているとのこと。なお、「とりら」とは神楽の天女の舞いでのかけことばだそうです。)
 問い合わせる=主催市町村(イベントは観光課、芸能祭は教育委員会)
◎ 交通手段 公共交通機関をよく調べること。
◎ 席の取り方 ホールは前が良い。小さい会場では状況をよく見て決める。
◎ 権現様の拝み方
 黒森神楽などで神楽を見る場合は権現さんを拝んでから座る。「身固め」を受ける。
◎ お花について
 お花は神楽にとっては大事な収入、遠慮せずに出してよい(2〜3千円程度)
◎ 撮影については、演じる側、見る側に邪魔にならないように注意すること。
◎ 直会(なおらい)に誘われたら遠慮なくおもてなしを受けるのがマナー。神様と一緒に食事する神事の一環。出来たら「お花」も出す。

資料を見て
資料を見て
=インターネットで情報収集=
◎ 「みちのく芸能ごよみ」 http://www.h3.dion.ne.jp/~iwagei/
◎ いわて観光ポータルサイト http://www.iwatetabi.jp/event/event_list.php
◎ いわて民俗観光プロジェクト http://minzoku-geinou.com/
◎ 各団体サイト
 ・ 黒森神楽 http://www6.ocn.ne.jp/~kurokagu/
 ・ 石鳩岡神楽 http://www5.ocn.ne.jp/~hayatine/index.htm

● 参加者に配布していただいた次の資料も、岩手の民俗芸能や神楽の知識や情報が掲載されており、大変参考になる資料です。
◎ 「岩手の民俗芸能(カレンダーとマップ)」
 発行 : 民俗芸能を活用した集客交流を促進するコンソーシアム
 TEL 019−653−1058
 (ホームページは上記の「いわて民俗観光プロジェクト」から)
◎ 「盛岡の民俗芸能 神楽」(リーフレット)
 発行 : 盛岡市無形文化財保存連絡協議会
 (事務局 : 盛岡市教育委員会歴史文化課内)

 飯坂さんのお話やいただいた資料、そしてインターネットの情報から、神楽の世界は広く多様な種類があり、また、奥も深いものがあるように感じた文化サロンでした。神楽を見るために大変参考になりました。ありがとうございました。
(文 : 佐藤安彦 写真 : 飯坂真紀さん、庄司隆)