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第38回文化サロン 平成20年2月21日

「このごろのテレビ考」
ゲストスピーカー 佐々木 篁 氏
(岩手大学非常勤講師、前IBC岩手放送常務取締役)
第38回文化サロンのポスター プロフィール
 佐々木篁氏は1935(昭和10)年北上市生まれ。早稲田大学文学部卒業後岩手放送に入社。東京支社、本社報道部で勤務し、報道部長、常務取締役を歴任されました。
IBC岩手放送退社後は岩手大学非常勤講師となり、現在に至っています。

主な著書
 『アメリカの新渡戸稲造』(熊谷印刷出版部)などがあり、『岩手百科事典』(岩手放送)の編集にも携わりました。
ゲストスピーカー 佐々木篁氏
 佐々木さんは、長年IBC岩手放送に勤務され、報道分野のほかに事業や技術のお仕事にも携わり、退社後岩手大学からマスコミ関係の授業をして欲しいとの依頼で、社会とコミュニケーションについての講義をされているそうです。
 2003年からは「メディア論」を教えており、これはメディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネットなど)の情報を「鵜呑みにするな」ということにポイントを置いて講義をしている。多くの情報をそのまま受け取るのでなく、自分の立場、考え方で主体的、批判的に中身を見分け、賢い視聴者になろうということがテーマで、これが「メディアリテラシー」です、と話され講話を進められました。
会場の様子 □ 「メディアリテラシー」ということ
 メディア教育・メディア学習とも言い、発信する側でなく受け取る側の立場で考えていこうとするもので、1980年代初めカナダ、イギリスの教育者、メディアの学者が取り上げ、学校教育に導入された。
 「メディアを社会的文脈で主体的・批判的に読み解く」能力のことで、ヨーロッパ、アメリカの各州の小・中・高校で必須科目となっている。メディア先進国で導入していないのは日本だけである。
 メディアリテラシーが取り上げられた動機は、テレビ・ビデオなどの影響力が強まってきたなかで、学校の授業外で接するメディアの情報だけを真実と受け止め、子供の発達・成長のためには問題があるとの認識からである。メディアは全て構成された(作られた)もので、プラス面、マイナス面がある。このことを子どもたちに知ってもらい、免疫をもつことが大事である。文部科学省の学習指導要領に組み込まれていないのは残念である、と強調された。

□ 基幹メディアとしてテレビ
 テレビの保有台数は約1億2千万台、日本人の平均視聴時間は3時間47分(2006年11月)で、メディアでは圧倒的な影響力を持っている。
 日本のテレビ放送は、1953(昭和28)年2月にNHKが開始し、その後1953年8月のNTVなど民放も続いた。普及率は1954年3月に0.1%(866世帯)であったが、1959年3月に11%、1960年3月には23.1%と増加した。皇太子ご成婚パレード、ボクシング、相撲中継などのスポーツ放送が普及に拍車をかけた。また、大きなイベントや台風災害などがあると関心をもたれるようになる。
・放送技術の進歩
 カラー放送は1964年の東京オリンピックのころから始まった。東京オリンピックで特筆されるのは初めて衛星中継で放送されたことである。
 テレビに関する技術の第一の命題は、映像をいかにして早く遠くに運ぶかで、衛星中継の実現は画期的な進歩であった。今は赤道上空の通信衛星で地球のどこからも生中継が出来るようになり、技術の進歩は目覚ましい。
 テレビの最大の技術革新はデジタル化である。デジタル化により利用できるチャンネル数が増え、携帯電話や移動体無線などの電波の利用増に対応できる。また、テレビ放送がパソコンと一体化してパソコンでテレビ映像が見られる時代の到来を意味する。
 デジタル化は通信業界とIT業界の強い要望によるものである。
会場の様子 □ このごろのテレビ番組
 テレビ放送の技術は目覚ましく進歩、発展したが、放送の内容はどのように変わったか。ねつ造事件が起きている。昨年、関西テレビの「発掘!あるある大事典」で納豆ダイエット効果に関する大学教授のコメントをねつ造した事件が起きた。以前にも他の放送局でも同じような例があったが、情報のエスカレートがねつ造につながっている。
 特に感じるのは、ニュースもワイドショー化してその境目がなくなってきた。結論があってそこに誘導するため過剰な演出をする。そして坂出市の事件などのように間違った人を「犯人視」する。松本サリン事件の教訓が生かされていない。
・視聴率至上主義の問題
 関西テレビの社外調査委員会は報告の中で、放送界の構造上の問題として視聴率本位の政策態度を指摘した。視聴率の高低でコマーシャル料金が違い、経営に直結する仕組みが視聴率至上主義の経営に走ってしまう。視聴率を上げるためにハチャメチャな番組もあり、視聴率買収事件も起きた。
 広告料算出の基準となっている視聴率は、関東地区1万5千800世帯のうちの600世帯で、かなりの誤差があるのに絶対的なものになっている。
 高い視聴率が見込める番組内容を「キラーコンテンツ」という。顕著なのはスポーツ番組で、高視聴率ベストテンのうち7本を占める。独占放送権獲得にしのぎを削り、番組はエンターテイメント化(スポーツバラェテイ)している。(2007世界陸上の「日本の超人 BIB5」の例など)
・「真のジャーなーリズム」は健在
 1957年に評論家大宅壮一氏が「一億総白痴化」という言葉を投げかけた。私は、志をもって放送局に入り、テレビは文化であり、いろんな可能性があると、この言葉に反発した。しかし、最近はある面では的を射た言葉だと感じている。
 しかし、薬害肝炎の全面和解の影に女性記者を中心にした真剣な取材・報道が厚い役所の壁を動かした例や、TBSの再生紙問題の取材チームが分析したデーターをもとに製紙業界全体の問題と指摘したことなど、国民の知る権利に応え権力を監視し、圧力に屈せず報道する「真のジャーナリズム」はまだ健在であると思う。
・地方局の努力
 1月27日に1BCが報道姿勢に関する番組を放送した。このような番組を制作・放送できるということはまだまだテレビは大丈夫と思う。テレビ岩手の「ザ・ナビゲーター」やIBC特集番組など視聴率があまり取れない若干地味なテーマに取組み、放送している。
 地方局は、デジタル化対応への多額な投資問題もあり存続上きわどいところに立っている。地域住民の信頼・支持がないと生きのびることができない。これからも知る権利に応えるよい番組をつくって欲しいと後輩に期待している、と思いを語られた。
会場の様子 □ テレビは何処へ
 テレビは、インターネット化やDVD化などのメディアの多様化、情報の多様化か ら今までのように「基幹メディア」として独占できる時代ではない。視聴率至上主義の地上波の方式ではいずれ立ちゆかなくなるではないか、と問題提起された。

 テレビは日常生活に欠くことのできない存在ですが、佐々木篁さんが最初にお話された「メディアリテラシー」は、視聴率本位の番組を受け取る大人にとっても大事なことと実感しました。今日は示唆に富んだお話をいただきありがとうございました。
 (文・写真 佐藤)